病院で注射用抗菌薬を使用している患者は、むしろ腎機能が低下している方の方が多いと思います。
今回は腎機能別の投与量についてまとめました。
【単位】
固定用量で投与量を調節する薬剤:CCr(mL/min)
体重換算で投与量を調節する薬剤:CCr(mL/min/1.73m2)
感染症領域ではよくあることですが、(承認時と今の標準治療が異なるため)保険適応上とは異なる用量も記載しています。
例えば、腸球菌(E. faecalis)に対して高用量のアンピシリン(1回2gを1日6回)が使用されますが、添付文書上は1日4g(適宜増減可)といった具合です。
使用に際しては、症状詳記をしっかり行うなどに注意してください。
抗菌薬(注射)の腎機能(CCr)別投与量
ペニシリン系
薬剤 | >50 | 50-10 | <10 | HD | CRRT |
ABPC | 1回1-2g 1日4-6回 | 1回1-2g 1日2-3回 | 1回0.5g 1日2回 | 1回0.5g 1日2回 | – |
PIPC | 1回2-4g 1日2-6回 | 1回2-4g 1日2-4回 | 1回1-4g 1日1-3回 | 1回1-2g 1日1-3回 | 1回2-4g 1日2-4回 |
SBT/ABPC | 1回3g 1日2-4回 | 1回1.5-3g 1日2-3回 | 1回1.5-3g 1日1回 | 1回1.5-3g 1日1回 | 1回1.5-3g 1日2回 |
TAZ/PIPC | 1回4.5g 1日3-4回 | 1回2.25-4.5g 1日2-3回 | 1回2.25-4.5g 1日2-3回 | 1回2.25-4.5g 1日2-3回 | 1回2.25g 1日4回 |
セフェム系
薬剤 | >50 | 50-10 | <10 | HD | CRRT |
CEZ | 1回1-2g 1日2-3回 | 1回1-2g 1日2回 | 1回1g 1回/1-2日 | 1回0.5-1g 透析後 or 1日1回 | 1回1-2g 1日2回 |
CMZ | 1回1-2g 1日2回 | 1回1g 1日1-2回 | 1回1g 1回/1-2日 | 1回1g 1回/1-2日 | – |
CAZ | 1回1-2g 1日2-4回 | 1回1-2g 1日1-2回 | 1回1g 1回/1-2日 | 1回1g 透析後 or 1日1回 | – |
CTRX | 1回1-2g 1日1-2回 | 1回1-2g 1日1-2回 | 1回1-2g 1日1回 | 1回1-2g 1日1回 | 1回1-2g 1日1回 |
CTX | 1回1-2g 1日3-4回 | 1回1-2g 1日2-4回 | 1回0.5g 1日2回 | 1回0.5g 1日2回 | – |
CFPM | 1回1-2g 1日2-3回 | 1回1g 1日2回 | 1回0.5g 1日1回 | 1回0.5g 1日1回 | – |
カルバペネム系
薬剤 | >50 | 50-10 | <10 | HD |
DRPM | 1回0.25-1g 1日2-3回 | 1回0.25-0.5g 1日2-3回 | 1回0.25-0.5g 1日1回 | 1回0.25-0.5g 1日1回 |
IPM/CS | 1回0.5-1g 1日3-4回 | 1回0.25-0.5g 1日2-3回 | 1回0.25-0.5g 1日1-2回 | 1回0.25-0.5g 1日1-2回 |
MEPM | 1回0.5-2g 1日2-4回 | 1回0.25-1g 1日2回 | 1回0.25-0.5g 1日1回 | 1回0.25-0.5g 1日1回 |
モノバクタム系
薬剤 | >50 | 50-10 | <10 | HD | CRRT |
AZT | 1回1-2g 1日1-4回 | 1回1-2g 1日2-3回 | 1回0.5-2g 1日1回 | 1回0.25-2g 1日1回 | 1回1g 1日3回 |
アミノグリコシド系
薬剤 | >80 | 80-60 | 60-40 | 40-30 | 30-20 | 20-10 | <10 | HD |
AMK | 20mg/kg 1回/日 | 15mg/kg 1回/日 | 12mg/kg 1回/日 | 15mg/kg 1回/2日 | 12mg/kg 1回/2日 | 10mg/kg 1回/2日 | 3mg/kg 1回/3日 | 5-7.5mg/kg 透析後 |
GM TOB (ABK) | 7mg/kg 1回/日 | 5mg/kg 1回/日 | 4mg/kg 1回/日 | 5mg/kg 1回/2日 | 4mg/kg 1回/2日 | 3mg/kg 1回/2日 | 2mg/kg 1回/3日 | 2mg/kg 透析後 |
※ 開始後は薬物血中濃度モニタリング(TDM)により投与量を調節する。
リンコマイシン系
薬剤 | 用量調節必要なし |
CLDM | 1回300-600mg・1日2-4回 |
キノロン系
薬剤 | >60 | 60-30 | <30 | HD |
CPFX | 1回300-400mg 1日2回 | 1回300-400mg 1日1回 (or 200mg×2回) | 1回200mg 1日1回 | 1回200mg 1日1回 |
薬剤 | >50 | 50-20 | <20 | HD | CRRT |
LVFX | 1回500mg 1日1回 | 初回500mg/日 以降250mg/日 | 初回500mg/日 以降250mg/2日 | 初回500mg/日 以降250mg/2日 | 初回500mg/日 以降250mg/2日 |
薬剤 | 用量調節必要なし |
MFLX | 1回400mg・1日1回 |
薬剤 | >50 | 50-10 | <10 | HD |
STFX | 1回50mg・1日2回 1回100mg・1日1回 | 1回50mg 1日1回 | 1回50mg 1回/2日 | – |
PZFX | 1回500-1000mg 1日2回 | 1回500mg 1日1-2回 | 1回500mg 1日1回 | 1回300-500mg 透析後 |
テトラサイクロン系
薬剤 | 用量調節必要なし |
MINO | 1回100mg・1日1-2回 |
オキサゾリジノン系
薬剤 | 用量調節必要なし | 備考 |
LZD | 1回600mg・1日2回 | 腎機能低下例では血小板減少などが頻発するため、1日1回への減量も考慮 |
グリコペプチド系
薬剤 | 腎機能正常 |
VCM | 1回15-20mg/kg・1日2回 |
TEIC | 10mg/kg(600mg)・1日2-3回(高用量負荷投与の例) |
※ 初期投与量含め、薬物血中濃度モニタリング(TDM)により投与量を調製することが望ましい。
リポペプチド系
薬剤 | >30 | <30 | HD | CRRT | 備考 |
DAP | 1回4-6kg 1日1回 | 1回4-6kg 1回/2日 | 1回4-6kg 1回/2日 | 1回4-6kg 1回/2日 | 海外では1回8-10mg/kg まで増量可能 |
ST合剤
薬剤 | >30 | 30-10 | <10 |
ST | 通常量 | 半量 | 推奨しない |
(例)PCP治療の場合、1回3-4A 1日3回
※ 1日としてトリメトプリム(TMP)15mg/kg相当
その他
薬剤 | 用量調節必要なし |
MNZ | 1回500mg・1日3回 |
参考文献
- JAID/JSC感染症治療ガイド 2019
- サンフォード感染症治療ガイド 2021
- CKD診療ガイド 2012
- 感染症診療の手引き 第4版
- 感染症プラチナマニュアル 第7版
- Kucers’ The Use of Antibiotics 6th
- Johns Hopkins Antibiotic (ABX) guides
- Up To Date
さいごに
今回は腎機能別の投与量について記載させていただきました。
臨床の現場では、検査値上と実際の腎機能に乖離が生じることはよくあると思います。
例えば、薬物血中濃度モニタリング(TDM)である程度その方の腎機能が推測出来た場合は、併用薬についてもその腎機能に合わせた投与量に調整するなどの配慮が必要となります。
実際に投与する際には、患者の状態と副作用のリスクもしっかりと評価した上で投与量を調節いただけると嬉しく思います。