第3世代の経口セフェム系抗菌薬はちまたで 「だいたいウンコ(DU)」と呼ばれています。
その有用性については議論があるところですが、今回はDU剤と言われている理由についてお話しさせていただきたいと思います。
バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)が低い
バイオアベイラビリティとは、服用した薬がどれだけ全身循環血中に到達し作用するかを数値化した指標です。
第3世代の経口セフェム系抗菌薬は、ほとんど吸収されていないことがわかります。
一般名 | 商品名 | 略 | バイオアベイラビリティ |
セフカペン ピボキシル | フロモックス | CFPN-PI | 35% |
セフジトレン ピボキシル | メイアクト | CDTR-PI | 16% |
セフジニル | セフゾン | CFDN | 25% |
セフチブテン | セフテム | CETB | 不明 |
セフテラム ピボキシル | トミロン | CFTM-PI | 不明 |
セフポドキシム プロキセチル | バナン | CPDX-PR | 46% |
そのため、感染症に対して期待する効果が得られない = 使わなくてもいい薬(例外あり)と言われています。
抗菌薬と細菌のMIC(最小発育阻止濃度)との関係
MIC(最小発育阻止濃度)とは抗菌薬の強さを表す時に用いられる単位で、細菌の発育を抑制することのできる抗菌薬の最小濃度のことです。
この吸収率を踏まえた上で、一般的な用法・用量とMICとの関係を考えてみます。
第3世代の経口セフェム系抗菌薬のPK-PD breakpoint
Time>MICの設定
抗菌薬 | 投与量 | 増殖抑制 ≧40% | 最大殺菌作用 ≧60~70% |
CFPN-PI | 100mg×3回 | 0.25 | 0.06 |
CFPN-PI | 150mg×3回 | 0.25 | 0.06~0.13 |
CDTR-PI | 100mg×3回 | 0.25 | <0.06 |
CDTR-PI | 200mg×3回 | 1 | 0.25~0.5 |
CFDN | 100mg×3回 | 0.13 | 0.13 |
CPDX-PR | 200mg×2回 | 0.5 | 0.25 |
抗菌薬適正使用生涯教育テキスト(第3版), 日本化学療法学会, 2020. を一部改変
つまり、どう言うことかというと、 フロモックス(セフカペンピボキシル/CFPN-PI) を1回100mg(1錠)1日3回服用した場合、 最大殺菌作用効果が得られる「Time>MIC」が「≧60~70%」の細菌は、 MICが「0.06μg/mL」以下の細菌と言うことになります。臨床上MICが「0.06μg/mL」以下の細菌というのはほとんど存在しないため、結局期待する効果は得られていなかったという結論に至ります。
抗菌薬の組織移行性も考慮するとその効果はさらに低くなる可能性があります。
菌交代症のリスク
健常な人の腸内では、常在細菌叢を形成する細菌(大腸菌など)がいるおかげで、病原性を有する細菌の増殖が抑制されています。
むやみに第3世代の経口セフェム系抗菌薬を使用すると、常在細菌叢を形成する多くの細菌が死滅し、通常は抑制されていた病原性を有する細菌が異常に増殖することがあります。
代表的な菌交代症としてクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連下痢症があります。
クロストリジウム・ディフィシルは抗菌薬や「速乾性手指消毒剤(アルコール製剤)」による手指衛生に対して高い抵抗性を示すため、しばしば院内感染で問題となります。
この細菌が分離された場合、「流水と石鹸」による手指衛生(手洗い)が必要となりますので注意お願いします。
耐性菌発現のリスク
抗菌薬は唯一「環境に影響を与える薬剤」と言われています。
= 抗菌薬は使えば使うほど、その抗菌薬に抵抗性を示す耐性菌が出現する可能性がある。
そのため、不要な抗菌薬の使用を減らしていくことが、耐性菌発現の抑制に繋がります。
さいごに
今回は「第3世代の経口セフェム系抗菌薬」についてお話しさせていただきました。
抗菌薬は使うときはしっかり使う!使わないときは使わない!
抗菌薬の適正使用にご協力お願いいたします。