結核の治療は大変!

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今回は結核の治療についてお話します。
結核は、たびたび「実は結核だった!」問題が浮上するやっかいな感染症です。
治療も長期間に及ぶため、どう支援していくかが重要となります。
そんな「古くて新しい病気=結核」についてまとめましたので、参考にしていただければと思います。

結核の疫学

世界の三大感染症(HIV、結核、マラリア)の一つで、世界の1/3の人々が潜在的に結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に感染していると言われています。
日本は先進国の中では多い地域(中蔓延国)であり、年間の新規感染者として10万人当たり20人程(アメリカの約4倍)、だいたい毎日50人程の新規患者と5人以上の死亡者が報告されています。
結核菌に感染しても発病する確率は5~10%とされていますが、潜在性結核感染症(LTBI)として潜伏して、加齢や免疫力の低下によって数十年後に発病することもあります。
免疫力の低下によって発症が助長されるため、発展途上国で暮らす人であったり、ホームレスの人に多いイメージがあります。

空気感染に注意!

結核菌は空気感染することが知られています。
空気中でも2週間程度は生き残ると考えられており、個人防護具(PPE)としてN95微粒子用マスクなどの対策が必要になります。
強制力はありませんが陰圧個室での管理(隔離)が望ましく、治療を開始して1~2カ月で排菌しないようになれば通常の生活が可能です。

「感染経路別予防策」はこちら

治療はとても大変!

結核菌は分裂が非常に遅いため、その治療には最低6カ月の期間が必要となります。
耐性菌による治療失敗を避けるために多剤併用療法を行いますが、どれも副作用が多い薬であることに注意が必要です。

基本治療:2HREZ → 4HR

基本的な治療法としては、最初の2か月はイソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)、ピラジナミド(PZA)の4種類を併用し、残りの4カ月はINHとRFPの2種類を併用します。
特に重要なINHとRFPは「キードラッグ」と呼ばれています。

DOTS(Directly observed therapy)

結核の治療はしっかりと毎日飲むことがなにより大切です。
飲み忘れはイコール「耐性菌の誘導」や「治療失敗」につながります。
しかしながら、治療期間が長いことや副作用が多いことから、治療成功率は約50%にすぎないことが課題でした。
その問題を解決するため、医療従事者(もしくは支援者)が毎日しっかり飲んでいることを目の前で確認するようになり、その方法のことをDOTSと言います。

潜在性結核感染症(LTBI)の治療

結核患者との接触であったり、既感染で免疫抑制薬などを使用する場合、結核の発症を予防するために、抗結核薬(通常はINH)を6~9カ月の期間服用することがあります。

抗結核薬の詳細

抗結核薬は非常に副作用が多いです。
不十分な説明と副作用発現(EBの視力障害など)による訴訟も起きていますので、しっかりとした説明と納得して治療を受けてもらうことが大切です。

用法・用量の一覧

薬剤名標準量最大量
イソニアジド(INH)成人:5mg/kg
小児:10-20mg/kg
300mg
リファンピシン(RFP)成人:10mg/kg
小児:10-20mg/kg
※ 原則は空腹時
600mg
リファブチン(RBT)5mg/kg300mg
エタンブトール(EB)15-20mg/kg750-1000mg
ピラジナミド(PZA)25mg/kg1500mg
ストレプトマイシン(SM)
カナマイシン(KM)
15mg/kg(注射)750mg(連日)
1500mg(週3回)
エンビオマイシン(EVM)20mg/kg1000mg
エチオナミド(TH)10mg/kg600mg
パラアミノサリチル酸(PAS)200mg/kg12000mg
サイクロセリン(CS)10mg/kg500mg
レボフロキサシン(LVFX)8mg/kg500mg
デラマニド(DLM)1回100mgを1日2回
※ 食後(空腹時を避ける)
200mg

イソニアジド(INH)は末梢神経炎と食事

結核菌特有のミコール酸(細胞壁の成分)合成を阻害する薬です。
主に肝臓(NAT2)で代謝されますが、代謝物は肝毒性を有することに注意が必要です。(RFP併用でリスク増加)
副作用として、末梢神経炎を起こす可能性があるため、ビタミンB6(ピドキサール)を併用して予防します。
青魚などのヒスタミンを多く含む食品と併用で、頭痛や紅斑、嘔吐、掻痒感などが引き起こされる可能性があります。
また、チーズなどのチラミンを多く含む食品と併用で、血圧上昇や動悸といった症状があらわれることがあり、内服中は食事にも気を付けるようにしましょう。

リファンピシン(RFP)は代謝酵素を誘導

結核菌のRNA合成(DNA依存性RNAポリメラーゼ)を阻害する薬です。
この薬も肝障害を引き起こすことがあるため、定期的な肝機能検査を行う必要があります。
びっくりするほど真っ赤な薬のため、尿や汗なども橙赤色になります。
代謝酵素を誘導することに特に注意が必要で、例えば抗結核薬の副作用で不眠が発現して睡眠薬(ほとんどが肝代謝)が処方されたとしても、ほとんど効果は得られません。
原則、空腹時(食後では吸収率低下)に飲む薬ですが、アドヒアランス確保や副作用軽減を目的に食後に使用する場合もあります。

エタンブトール(EB)は非可逆的な視力障害

結核菌の核酸合成を阻害する薬です。
この薬は腎排泄型の薬剤であるため、腎機能障害時には用量調節が必要になります。
一番注意しなければいけないのは視力障害で、この薬内服中は定期的に視力検査を行います。
視神経障害を起こしている可能性のある糖尿病患者やアルコール中毒者に禁忌であることも重要です。

ピラジナミド(PZA)は尿酸値上昇

この薬もミコール酸の合成を阻害する薬です。
主に肝臓で代謝されますが、多くが尿中に排泄されるため、腎機能障害時には用量調節が必要となります。
副作用として尿酸値上昇を起こしやすく、抗結核薬内服中に体中が痛くなったら、INHの末梢神経炎よりもまずはこちらを疑うようにしましょう。

さいごに

今回は結核の治療についてお話しさせていただきました。
結核の治療はとにかく治療を完遂できるよう、しっかりとした支援体制を整えていくことが重要です。
病院・薬局・保健所など、しっかり連携を取っていけるよう取り組んでいきましょう。