今、急激に増えているのが梅毒です。
2012年以前、国内の梅毒報告者数が1000人を超えることはありませんでした。
それが今は7875人!(2021年の梅毒報告者数)
統計を始めてから過去最高の人数が報告されました。
一方で、2022年1月26日に念願だった持続性ペニシリン製剤「ステルイズ」が発売されました。
今回はそんな梅毒について考えていきたいと思います。
梅毒(Syphilis)とは?
梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)というスピロヘータ※が感染することで引き起こされる感染症です。
※ らせん状の形態をしたグラム陰性細菌の総称
感染法上の5類感染症(全数把握疾患)に指定されているため、梅毒(陳旧性梅毒を除く)と診断された場合には7日以内に都道府県知事(保健所)に届け出る義務があり、その報告数は国立感染症研究所のホームページから見ることができます。
感染経路は?
傷口からの浸出液や精液、膣分泌液、血液などの体液を介して感染します。
国内においては性行為が主たる感染経路(性感染症)です。
潜伏期間は平均3週間と言われています。
母胎内で感染する梅毒のことを「先天梅毒(Hutchinson三徴候が特徴的)」と言い、70~100%と非常に高い感染率を誇ります。
病期による分類と症状
皮膚や粘膜から体内に侵入し、血行性に散布されて侵入局所および全身の各部位に症状が発現します。
そのため、あらゆる臓器に様々な症状を引き起こす「多彩さ」が知られています。
その多彩さから「the great imitator(偽装の達人)」と呼ばれることがあります。
症状を有し治療を要する「活動性梅毒」と、梅毒抗体は陽性だが治癒している「陳旧性梅毒」に大別することもできます。
第1期梅毒 (感染後約3か月まで) | 局所(性器・肛門・口)に症状が表れる 初期硬結や硬性下疳(無痛潰瘍性病変)が特徴 ※ 数週間で自然消退することが多い |
第2期梅毒 (感染後約3か月~3年) | 血行性に全身に散布されて症状が認められる 皮疹(バラ疹などの多彩な形態)と発熱が特徴 |
第3期梅毒 (感染後約3年~10年) | 全身で炎症が進行 ※ 3期以降の晩期梅毒に国内で遭遇する可能性は少ない |
第4期梅毒 (感染後約10年以降) | 脳や心臓(大動脈炎など)に病変が起きる |
潜伏梅毒 | 無症候(第1期~第2期、第2期症状消失後) 潜伏梅毒の25%に第二期梅毒の症状が再燃する |
持続性ペニシリン製剤「ステルイズ」
一般名:ベンジルペニシリンベンザチン水和物
商品名:ステルイズ®水性懸濁筋注
2022年1月26日、念願だった持続性ペニシリン製剤「ステルイズ」が発売されました。
と言っても、世界的には決して新しい薬という訳ではありません。
米国などの諸外国では、梅毒の標準的な治療薬として70年近く使用されてきました。
持続性ペニシリン製剤(PCG ベンザチン)が梅毒治療の第一選択薬と記載されているガイドライン ・WHO Guidelines for the Treatment of Treponema Pallidum (Syphilis) ・サンフォード感染症治療ガイド ・Sexually Transmitted Diseases Treatment Guidelines ・European Guideline on the Management of Syphilis ・Cecil Medicine |
この薬の特徴は、何と言っても「持続性」が高いという点です。
梅毒の治療は、血漿中のペニシリン濃度を0.018µg/mL以上に保つ(7~10日間)必要があります。
持続性ペニシリン製剤(PCG ベンザチン)は溶けにくく、筋注部位から緩徐に放出されるため、血中濃度が長時間持続(1週間以上)します。
そのため、早期梅毒(第1期~第2期)では単回投与で治療が可能となりました。
飲み忘れを気にしなくていい!
飲み忘れによる治療失敗のリスクを考えなくていいというのは、非常に大きなメリットですね。
用法・用量は次のようになります。
早期梅毒 第1期 第2期 早期潜伏梅毒 | 持続性ペニシリン製剤(PCG ベンザチン) 240万単位・単回筋注 |
後期梅毒 ステージ不明 | 持続性ペニシリン製剤(PCG ベンザチン) 240万単位・1週間隔で3回筋注 |
2歳未満の小児 先天梅毒 | 持続性ペニシリン製剤(PCG ベンザチン) 5万単位/kg・単回筋注 |
アレルギー症状には特に注意が必要!
一方で、デメリットもあります。
アレルギーが発現した場合、連日投与の薬剤であればすぐに投与を中止することができます。
ただ、持続的に薬剤が放出されるということは、服用中断といった対応ができないということでもあります。
そのため、注射した後に最低30分間は経過を観察する必要がありますし、アレルギーが発現したとしても、薬を体から取り除くことはできません。
対症療法などで対応しますが、この薬剤を使用する上で最大のデメリットと言われています。
持続性ペニシリン製剤(PCG ベンザチン)を使用開始前には、しっかりとアレルギー歴を聴取するようにしましょう!
ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー(Jarisch-Herxheimer)反応
梅毒の治療を開始するとアレルギーと似た症状が発現することがあります。
起炎菌が大量に死滅することで引き起こされ、発熱や皮疹、リンパ節腫脹、頭痛、筋肉痛、悪寒、血圧低下などの症状が表れます。
治療開始後約2時間~24時間が多く、第1期では半数、第2期ではほとんどの症例に発現します。
アレルギーではないので、患者への十分な説明と、解熱鎮痛剤で対応できますが、中には真のアレルギーがいることも頭に入れておく必要があります。
その他の治療薬は?
ここからは従来日本で使用されてきた薬の使用方法について説明します。
治療は100%感受性のあるペニシリン系抗菌薬を使用します。
病期によって治療期間が異なる(第1期は2~4週間、第2期は4~8週間、第3期以降は8~12週間)ことに注意しましょう。
基本治療
アモキシシリン(AMPC) | 1回500mg・1日3回 |
神経梅毒の可能性を重視
アモキシシリン(AMPC) | 1回1~2g・1日3回 |
± プロベネシド | 1回250mg・1日3回 |
神経梅毒
ベンジルペニシリンカリウム(PCG) | 1回300~400万単位・1日6回・10~14日間 |
ペニシリンアレルギーの場合
ミノサイクリン(MINO) | 1回100mg・1日2回 |
国内でドキシサイクリン(DOXY)は保険適応外
妊婦でペニシリンアレルギーの場合
スピラマイシン(SPM) | 1回200mg・1日6回 |
さいごに
今回は、最近少し話題の梅毒についてお話させていただきました。
その選択肢が増えたことで、治療の幅が広がったことは間違いありません。
増加する梅毒をどうコントロールしていけるか?
少しでも参考になれば嬉しく思います。