サーベイランスを有効活用できていますか?

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サーベイランスを行うこと自体が目的となっていないですか?
少しドキッとした方も多いのではないでしょうか?
今回は、サーベイランスを有効活用していくために必要なことについて考えていきたいと思います。

サーベイランスとは?

サーベイランスは、直訳すると「監視」と訳すことができます。
経済や感染症の分野で用いられることが用語で、定期的に定められた方法でデータ(動向)を収集することを意味します。
まずは、その種類についてお話ししていきたいと思います。

包括的サーベイランス

感染症領域におけるサーベイランスは、主に二つに分類することができます。
包括的サーベイランスでは、病院や部門全体を対象として、包括的に感染症を調査していく方法です。
非常に大きな労力を要しますが、様々な医療関連感染の実態を把握できる調査方法として有用です。
厚生労働省の院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)などがこれにあたります。

ターゲットサーベイランス

通常、病院内で活用されているサーベイランスはこっちです。
特定の微生物や医療器具、処置を対象として調査していく方法をターゲットサーベイランスと言い、費用対効果が優れているとされています。

  • 抗菌薬耐性菌(MRSAなど)サーベイランス
  • 手術部位感染(SSI)サーベイランス
  • 医療器具関連(CLABSI、CAUTI、VAE、VAPなど)サーベイランス
  • 症候群(胃腸症候群など)サーベイランス
  • 抗菌薬使用量サーベイランス
  • 手指消毒サーベイランス

アウトブレイク・インベスティケーション

通常のサーベイランスとは別に、予想以上の頻度で発生した感染症(アウトブレイク)に対して、積極的な調査を実施することがあります。
「エピカーブ(流行曲線)」と呼ばれる言葉を聞いたことはないでしょうか?
感染症の潜伏期間や感染期間、感染経路、時間と空間の関係を時系列で調査することで、感染症を特定し今後の感染対策に活かす疫学的手法です。

サーベイランスを活用できていますか?

今回の本題はこっちです。
確かにサーベイランスは有効ですが、ただ報告するだけの作業になっていないですか?
「今月は少し増えました」とか報告するだけでは何も意味がありません。

サーベイランスの目的を説明できますか?

診療報酬における感染防止対策加算には目標が設定されていません。
そのため、手続き上の作業となっている施設が多いのが現状です。
まずは、サーベイランスはあくまで手段であり目的ではないことを理解しましょう。

では、その目的とは何でしょうか?
それは「感染症を減らすこと」これに尽きると思います。
サーベイランスで得られたデータを利用して、どのような対策を行っていくか?
これが大切です。

目標を明確にする!

まずは明確な目標を設定することが大切です。
自身の病院における手術部位感染(SSI)の発生率が全国平均より高いのであれば、まずは全国平均まで減らすことを目標として設定してもいいでしょう。
広域抗菌薬の使用量が増えているのであれば、具体的な数値目標を設定するのもいいと思います。
大切なことは、その目標を達成するためにどんな対策が必要か考えて実行していくことです。

「効果的な目標設定(SMARTの法則)」はこちら

サーベイランスのやり方は複数あります。
アウトブレイクの早期発見や監視に対しても有用であることは間違いありませんが、その意味を理解して実施していくようにしましょう。

誰が行っても同じ判断ができる手法を用いる!

少しだけ、テクニカル的な手法についてもお話させていただきます。
昔からこの方法で行われているからと、漫然と報告していないですか?
施設独自の基準を作るのもいいですが、それだと他施設との比較はできません。

例えば、抗菌薬の使用量であれば、以前はただのバイアル数(mg数)で報告されていたのが、抗菌薬使用密度(AUD)や抗菌薬使用日数(DOT)といった概念が登場したことで、過去のデータと比較するだけでなく、他の施設(全国平均)との比較ができるようになりました。

また、サーベイランスは継続的に行っていくものであるため、継続可能な手法を用いることも大切です。
集計するのに、毎週何時間もかかっていては継続できないですよね。

感染対策連携共通プラットフォーム(J-SIPHE)

厚生労働省委託事業AMR臨床リファレンスセンターが主体となり、医療機関でのAMR対策に活用できるシステム(J-SIPHE:Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology)が運用され、800施設を超える医療機関(2022年1月現在)が登録・活用しています。

抗菌薬の使用量を始めとして、他の施設と比較できるようになったことで、自施設での状況を知ることができるようになりました。
まだまだ発展途上な部分も多くありますが、こういったデータを感染対策に活かしていけるよう取り組んでいくことが大切です。

さいごに

サーベイランスがただの作業にならないために、そんな現状をどうにかできないか考えるきっかけになればと思い、今回はこの記事を作成させていただきました。
大切なことは「どんな対策を実施していくか?」です。
そこが難しい部分であることは間違いありませんが、感染に携わっていく中でワクワクする部分でもあります。
少しでもお役に立てれば嬉しく思います。