手術を行うということは、そこにいる菌に暴露されるということでもあります。
手術する場所にもよりますが、今でも数%の確率で術後に感染症が発生しています。
せっかく手術が成功したのに、感染症で苦しむ!?なんてこと経験したくないですよね。
術後に感染症を起こさないための抗菌薬の使用方法についてまとめました。
術後感染の分類
術野感染 = 手術部位感染(SSI)
SSIが発症するかは手術中~数時間で決まる!と言われています。
原因菌:皮膚や消化管内の常在菌(内因性感染)
病態:手術部位の膿瘍、膿胸など
術野外感染 = 遠隔部位感染(RI)
原因菌:病院環境の汚染菌(外因性感染)
病態:肺炎、腸炎、尿路感染、カテーテル感染など
感染予防策
今回は、術後感染予防抗菌薬を中心に記載していきますが、術後感染を予防するためには各種対策が必要です。
- 禁煙(1か月程度)
- 除毛
- 術前のシャワー浴や入浴
- 血糖管理(180~200mg/dL以下)
- 手術時手洗い
- 清潔な機器、物品、環境
- 手術部位の消毒
- 術後感染予防抗菌薬
- 周術期の体温管理(低体温予防)
- SSIサーベイランス
抗菌薬の選択
基本はβ-ラクタム系抗菌薬
β-ラクタム系抗菌薬は細菌特有の細胞壁の合成を阻害する薬であることから、細菌に対する選択毒性が極めて高いとされています。
(人は細胞壁を持たないため、副作用が少なく、安全性が高い)
セファゾリン (CEZ) | セフメタゾール (CMZ) | |
グラム陽性球菌 | +++ | +++ |
代表的グラム陰性桿菌 (大腸菌、肺炎桿菌、変形菌) | ++ | +++ |
その他グラム陰性桿菌 | ー | + |
嫌気性菌 | ー | +++ |
緑膿菌 | ー | ー |
清潔手術(小手術) | ◎ | 〇 |
清潔手術(大手術) | ◎ | ◎ |
準清潔手術(上部消化管) | ◎ | ◎ |
準清潔手術(下部消化管) | 〇 | ◎ |
準清潔手術(肝・胆道) | 〇 | ◎ |
汚染手術 | 〇 | ◎ |
不潔/感染手術 | 〇 | 〇 |
術後感染予防抗菌薬として最も多く使用されるセファゾリン(CEZ)ですが、2019年には異物混入などの影響から供給低下に陥り、苦労した人も多いのではないでしょうか?
使用する抗菌薬は、その手術のSSIとして多い原因菌(術野の常在菌)を知り、その菌をカバーできる抗菌薬に置き換えることができます。
投与のポイント
投与のタイミング
- 切開の1時間前以内に投与を開始する(A-II)
- VCMとフルオロキノロン系は2時間前以内に投与を開始する(C1-III)
- 長時間手術の場合、一般的に半減期の2倍の間隔で術中再投与が行われる(C1-III)
- 術中再投与のタイミングは術前抗菌薬投与終了時からの時間
投与量
- 予防抗菌薬であっても治療量を用いる(A-II)
- 過体重/肥満患者(>80kg)に対しては抗菌薬の増量が必要である(C1-III)
β-ラクタム系アレルギー
非常に優れた抗菌活性と安全性を有するβ-ラクタム系抗菌薬ですが、副作用としてアレルギーが多い点には注意が必要です。
手術前にアレルギーが発現して手術延期なんてことが起こらないように、しっかりと確認していきましょう。
まずは問診!
β-ラクタム系アレルギーだと全てのβ-ラクタム系抗菌薬が使えないということでしょうか?
実はそうではありません!
下痢や腹痛などの症状をアレルギーとして申告してくる人も多く、ペニシリンアレルギーと自己申告した人のの10~20%しか真のアレルギーではなかったという報告もあります。
まずは問診でその状況を明確にし、妥当性を評価することが重要です。
- 症状と程度(皮疹とその重症度は?)
- 時間(薬物投与期間と症状発現の関係は合理的か?)
- 併用薬(他に被疑薬となるものはないか?)
- 経過(薬物の中止で症状は改善したか?)
- 投与歴(他の抗菌薬投与時には?)
ペニシリン系アレルギー
ペニシリン系抗菌薬は主に、β-ラクタム環が開列して生じたペニシロイル-蛋白結合物によりアレルギーが生じると考えられています。
同じβ-ラクタム環を有するセフェム系抗菌薬との交差アレルギー反応は、第1・2世代で10%、第3世代で2~3%と報告されています。
Immunol Allergy Clin North Am 2004;24:463–476.
セフェム系アレルギー
セフェム系アレルギーと言っても、第一世代~第四世代まで様々です。
その構造(側鎖)が似ているものほど、交差アレルギーが多いと言われているので、やむを得ず使用する場合は構造が異なるものを選びましょう。
重症のアレルギーの場合
アナフィラキシーやスティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)、中毒性表皮壊死融解症(TEN)といった重度のアレルギーが発現した場合には、副作用のリスクがベネフィットを上回ると考えられるため、同系統の薬剤は避けるべきです。
β-ラクタム系以外の抗菌薬
β-ラクタム系抗菌薬がどうしても使用できない場合は、他系統の抗菌薬の使用を考えていく必要があります。
- グラム陽性菌:CLDM or VCM
- グラム陰性菌:アミノグリコシド系 or フルオロキノロン系 or AZT
- 嫌気性菌:MNZ(下部消化管・婦人科)or CLDM(口腔・咽頭)
術後感染予防抗菌薬のガイドライン
日本化学療法学会と日本外科感染症学会から「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」が公開されていますので、詳細はそちらをご確認ください。
さいごに
今回は、術後感染予防抗菌薬について重要な点をお話しさせていただきました。
適切な管理を行っていくことで、術後の感染症を減らすことができます。
安全に安心して手術を受けられる環境を整えていきましょう。