2022年2月10日にファイザー製の新型コロナウイルス感染症2番目の経口治療薬「パキロビッドパック(ニルマテルビルとリトナビルの合剤)」が承認されました。
非常に効果が高く期待されている薬ではありますが、その使用には注意が必要です。
今回は一番注意が必要な点、リトナビルとの相互作用に関する情報についてまとめましたので参考にしていただければと思います。
PAXLOVID(ニルマテルビルとリトナビルの合剤)の変遷
2021年12月22日:アメリカで承認(緊急使用許可・EUA)
2022年1月17日:カナダで承認
2022年1月27日:欧州連合(EU)で承認
2022年1月14日:日本で承認を申請
2022年2月1日:200万人分の購入を最終合意(厚生労働省)
2022年2月10日:日本で承認!(国内販売名:パキロビッドパック)
初の経口治療薬「モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)」はこちら
2022年2月12日追記
実際にコロナ患者さんを対応していて思ったのが、「併用薬の確認」や「薬の説明」が非常に難しいということです。
というのも、感染のリスクを抑えるため、コロナ患者さんに薬剤師が直接お会いしているケースは少ないと思います。
通常は、電話などのネットワークを通して「確認」や「説明」を行っていくと思いますが、電話によるコミュニケーションには限界があります。
併用薬を10種類以上服用している高齢者から情報を聞き出すのはほぼ不可能ですよね。
SNS等を活用してビデオ通話を行ったり、お薬手帳の写真を送って貰いながら取り組んでいますが、なかなか難しいというのが現状です。
とは言え、記事に記載したように確認は必須なので、安心・安全の医療を提供できるよう頑張っていきましょう!
リトナビルとは?
リトナビルはHIV感染症に対する抗ウイルス薬(プロテアーゼ阻害薬)として承認(1997年)されましたが、今は抗ウイルス効果よりもブースター(作用増強剤)としての効果が期待されています。
強力な肝代謝(CYP)阻害剤
この薬の特徴は、あえて相互作用を起こしているということです。
あえて肝代謝(CYP)を阻害することで、他の薬の代謝を遅らせて、血中濃度を維持することを目的として使用されています。
どういうことかと言うと、抗HIV薬の一つにホスアンプレナビル(レクシヴァ)と言う薬があります。
この薬は、単剤では1日2回服用しないと血中濃度が維持できないのですが、リトナビルを併用することで1日1回の服用でも血中濃度が維持できるようになりました。
ブースターとしてリトナビルが使用されている薬剤
この独特な特徴を活かしていくつかの薬が実際に使用されています。
抗HIV薬
- ホスアンプレナビル(レクシヴァ)+リトナビル
- ロピナビル/リトナビル(カレトラ)… 一時期コロナにも使用された薬
- アタザナビル(レイアタッツ)+リトナビル
- ダルナビル(プリジスタ)+リトナビル
C型肝炎治療薬(2019年 製造販売中止)
- オムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル(ヴィキラックス)
新型コロナウイルス治療薬
- ニルマテルビル/リトナビル(パクスロビド)
相互作用がめちゃくちゃ多い!
あえて相互作用を起こしているを起こしていると言うことは、一緒に飲んでいる他の薬(併用薬)への影響(相互作用)が非常に大きいということに注意が必要です。
添付文書にも「本剤はCYP3Aと特に強い親和性を示し、CYP3Aで酸化される種々の併用薬剤の代謝を競合的に阻害する。」と記載されています。
また、「本剤はグルクロン酸抱合を促進し、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19を誘導することがわかっている。併用薬剤の血中濃度を低下させ、薬効が減弱する場合には併用薬剤の用量調節が必要となる可能性がある。」とも記載されています。
阻害作用や誘導作用があったり非常に複雑でわかりづらいですよね。
肝臓で薬を代謝する機能をもつ主要な酵素がシトクロムP450(CYP)と呼ばれるものであり、リトナビルはその酵素を阻害することで、非常に多くの薬剤との相互作用を引き起こす可能性がある!
まずはこのことを覚えていただければと思います。
睡眠薬とは要注意!
睡眠薬は、そのほとんどが肝臓で代謝されます。
例えば、睡眠薬の一つにトリアゾラム(ハルシオン)という薬があります。
この薬とリトナビルを一緒に飲んだ場合、トリアゾラムの血中濃度(AUC)が約20倍になることが報告されています。
J Acquir Immune Defic Syndr 2000;24:129-136.
血中濃度が20倍になったらどうなるか想像してみてください。
数日間は目を覚まさないかもしれません。
吸入ステロイドとも!?
一般的に吸入のステロイド薬は体内に吸収されないため相互作用は少なく、添付文書にも相互作用の記載はありません。
ただ、実際には吸入ステロイド薬とリトナビルを併用した場合に、クッシング症候群や副腎皮質機能抑制が発現したことが報告されています。
リトナビルは非常に相互作用が多い薬のため、添付文書に記載されている薬剤以外にも相互作用の可能性があることを考慮しなければいけません。
リバプール大学の相互作用検索サイト
添付文書やインタビューフォームなど、国内の情報には限界があります。
海外のサイトになりますが、HIV感染症の領域でよく使用される相互作用検索サイトについて紹介します。
HIV Drug Interactions(リバプール大学の相互作用検索サイト)
- 「Interaction Checker」を選択
- 左側から「抗HIV薬の名称(ritonavir)」を選択
- 中央から「検索したい薬の英語表記」を検索して選択
- 右側に相互作用の結果が表示
と言った流れで相互作用の検索が可能です。
- Do Not Coadminister(併用禁忌)
- Potential Interaction(相互作用の可能性あり)
- Potential Weak Interaction(弱い相互作用の可能性あり)
- No Interaction Expected(相互作用なし)
- No Clear Data(データなし)
リバプール大学では抗HIV薬の他に、抗がん剤や新型コロナウイルス感染症治療薬、C型肝炎治療薬との相互作用を確認するための検索サイトも無料で公開しているので、相互作用に困った際はそちらも参考にしてください。
- 抗HIV薬との相互作用を検索
- 新型コロナウイルス感染症治療薬との相互作用を検索
- 抗がん剤との相互作用を検索
- C型肝炎治療薬との相互作用を検索
相互作用の確認方法
その他にも相互作用を確認するサイトを紹介します。
HIV Guide(ジョン・ホプキンス大学のHIV/AIDS情報サイト)
MD consult(Elsevierの情報プラットフォーム)
さいごに
今回はちょっと注意が必要な薬、リトナビルについてお話しさせていただきました。
基礎疾患を有する人や高齢者では、特に併用薬が多いので注意をお願いします。
ちなみに現在HIV感染症の領域では、リトナビルを含むプロテアーゼ阻害薬は副作用や相互作用の問題から第一線を退いています。
今度発売される薬が新型コロナウイルス感染症の領域で広く使われるようになるかは微妙(ヴィキラックスと同じような運命??)ですが、使用の際は出来ることをしっかり確認していきましょう。