ピロリ菌の話

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胃には胃酸があるため、以前は胃に菌は存在しないと考えられていました。
2005年にノーベル生理学・医学賞受賞したバリー・マーシャルは「自らピロリ菌を飲んで急性胃炎が起きるのか?」という強烈な実験によってその存在を証明しました。
今回はそんなピロリ菌について考えていきたいと思います。

ピロリ菌とは?

ピロリ菌の感染経路

はっきりとはわかっていませんが、経口感染が大部分と考えられています。
汚染された河川・井戸水などを接種することによって感染すると推測されており、上下水道などの衛生環境が整備されていない地域の感染率が高いとされています。
日本も衛生環境が整備されていなかった時代を経た世代における感染率が高く、若い世代の感染率は低い傾向にあります。
若い世代であっても5~10%の感染率であることから、決して過去の病気ではないということを頭に入れておきましょう。

ピロリ菌が引き起こす悪影響

ピロリ菌は除菌しない限り、胃の中に住み続け慢性炎症を引き起こします。
慢性炎症によって粘膜防御機能が低下することで、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がん、胃MALTリンパ腫などの様々な疾患を発症することが知られています。
先進国の中で感染率の高い日本(推定感染者数:3000~6000万人程度)で胃がんが多いのは、このことが原因の一つであると考えられています。

ピロリ菌の検査

ピロリ菌の検査は様々ありますが、一番簡便で有名なのが尿素呼気試験です。
ピロリ菌はウレアーゼと呼ばれる少し特殊な酵素を持ち、胃の中の尿素を分解してアンモニアと二酸化炭素(血中に吸収され、肺から炭酸ガスとして排泄)を発生させます。
ここで発生した二酸化炭素にに目印をつけておき、呼気から排泄されるかを調べることで、ピロリ菌の存在を確認する方法です。

  • 尿素呼気試験
  • 抗体検査(尿・血液)
  • 糞便中の抗原検査

内視鏡検査

保険適応としては、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍がある場合に限られており、それを調べるための内視鏡検査が必要となります。

  • 鏡検法
  • 培養法
  • ウレアーゼ試験

ピロリ菌の除菌方法

ピロリ菌の除菌は「1種類の胃酸分泌抑制薬」と「2種類の抗菌薬」を組み合わせた3剤併用療法が基本です。
地域によって薬剤への耐性プロファイルが異なるため推奨される薬剤も多少異なりますが、今回は国内で一般的(保険診療)に広く使用可能な方法について記載していきたいと思います。

一次治療(保険診療)

治療期間:1週間

一般名商品名(先発)用法・用量薬効分類
ボノプラザンタケキャブ1日2回・1回20mg胃酸分泌抑制薬
(カリウムイオン競合型)
アモキシシリンサワシリン
パセトシン
1日2回・1回750mgペニシリン系抗菌薬
クラリスロマイシンクラリス
クラリシッド
1日2回・1回200~400mgマクロライド系抗菌薬

消化性潰瘍 診療ガイドライン2020日本消化器病学会)」より

胃酸分泌抑制薬としては「ボノプラザン」が第一推奨薬とされています。
他の胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬)と比べて何が違うのでしょうか?

その理由については次のように考えられています。

ピロリ菌は胃の中のpHが高い(胃酸が少ない)程、増殖するという性質を持ちます。
クラリスロマイシンはピロリ菌が増殖する過程を抑制することで効果を発揮する薬であるため、胃の中のpHが高い(胃酸が少ない)程、高い効果が期待できます。
2015年に発売された「ボノプラザン」は従来の胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬)と比較して強い胃酸分泌抑制作用を持ち、従来の胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬)のピロリ菌除菌成功率が70~90%程であったのに対し、「ボノプラザン」を使用すると90%以上の高い除菌成功率が期待できると考えられています。

治療効果は劣りますが、アレルギーなどで「ボノプラザン」が使用できない場合は、他の胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬)に置き換えることも可能です。

  • ランソプラゾール 1日2回・1回30mg
  • オメプラゾール 1日2回・1回20mg
  • ラベプラゾール 1日2回・1回10mg

2次治療(保険診療)

1次治療が失敗に終わった場合、2次治療を受けることができます。
2次治療としては、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに置き換えた3剤併用療法が推奨されています。

治療期間:1週間

一般名商品名(先発)用法・用量薬効分類
ボノプラザンタケキャブ1日2回・1回20mg胃酸分泌抑制薬
(カリウムイオン競合型)
アモキシシリンサワシリン
パセトシン
1日2回・1回750mgペニシリン系抗菌薬
メトロニダゾールフラジール1日2回・1回250mgニトロイミダゾール系 抗原虫薬・抗菌薬

日本ではクラリスロマイシン耐性菌が多く、メトロニダゾール耐性菌が少ないため、ガイドライン(消化性潰瘍 診療ガイドライン2020)ではメトロニダゾールを含む組み合わせが1次治療として推奨されていますが、1次治療でメトロニダゾールを使用することは保険適応外となる可能性があるため、今回は2次治療として記載させていただきました。

3次治療

2次治療が失敗に終わった場合、クラリスロマイシンをキノロン系抗菌薬であるシタフロキサシンに置き換えた治療を行うことがありますが、いずれも保険適応外となります。

副作用

抗菌薬を服用した際に起こりうる一般的な副作用が発現する可能性があります。
最も多いものが下痢・軟便で、10~30%程と言われています。
抗菌薬を服用するということは腸内の常在細菌叢のバランスを乱してしまうということでもあるため、予防的に整腸剤を服用する場合もあります。

「抗菌薬と整腸剤」はこちら

数%の確率で、皮疹などのアレルギー症状が発現し治療を中止せざる得ない状況も生じます。
他に、味覚異常、舌炎、口内炎、腹痛、放庇、腹鳴、便秘、頭痛、頭重感、肝機能障害、めまい、掻痒感などが発現する可能性があります。

ピロリ菌の除菌判定について

内服終了後、一般的には4週間以上の期間を設けてから確認します。
常用薬として胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬)を使用していると偽陰性となる可能性があるため、中止または変更しておく必要があります。

再発リスク

ピロリ菌は1回除菌してしまえば、国内で再発するリスクは2%以下(1年後)と言われており、そのメリットは非常に高いと言えます。
衛生環境が整備されていない地域においては、再発率が10%以上(1年後)の場所もあります。

さいごに

今回はピロリ菌の除菌についてお話させていただきました。
除菌を行うことで、胃潰瘍や十二指腸潰瘍だけでなく、胃MALTリンパ腫まで治療できる可能性があることには驚きです。
さすがに胃がんまで進行してしまった病変を治すことはできませんが、除菌することで胃がんを予防する効果もあると報告されています。
その方法について、参考にしていただければ嬉しく思います。