抗菌薬関連の下痢に使用すべき整腸剤は?

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抗菌薬を使用して一番多い副作用は何でしょうか?
それは下痢です!
これは抗菌薬が腸内に常在する細菌を殺してしまい、腸内細菌叢を乱してしまうことに由来します。
今回は、下痢になった時のお助けアイテム「整腸剤」について考えていきたいと思います。

抗菌薬で下痢になる理由

健常な人の腸内では、常在細菌叢を形成する細菌(大腸菌など)がいるおかげで、病原性を有する細菌の増殖が抑制されています。
むやみに抗菌薬を使用すると、常在細菌叢を形成する多くの細菌が死滅し、通常は抑制されていた病原性を有する細菌が異常に増殖することがあります。

経口薬であれば、ダイレクトに腸内の細菌を死滅させます。
注射薬ではどうでしょう?
注射薬で投与した抗菌薬が腸内にどれだけ移行するのかっていうのは、実はわかっていないことも多いです。
実際、バンコマイシンなどの抗菌薬は腸管内腔への移行がほとんどないことが知られています。
とは言え、抗菌薬投与中に下痢が発現したら、腸内細菌叢の乱れを考慮せざる得ないというのが現実です。
特にドキシサイクリン(テトラサイクリン系抗菌薬)などは、腸肝循環することが知られており、その影響は大きいと言えます。

菌交代症のリスク

代表的な菌交代症としてクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連下痢症があります。
クロストリジウム・ディフィシルは抗菌薬や「速乾性手指消毒剤(アルコール製剤)」による手指衛生に対して高い抵抗性を示すため、しばしば院内感染で問題となります。
この細菌が分離された場合、「流水と石鹸」による手指衛生(手洗い)が必要となりますので注意お願いします。

「流水と石鹸による手指衛生(手洗い)」はこちら

まずは「プロバイオティクス」を!

プロバイオティクスとは「腸内細菌叢のバランスを改善することにより、人に有益な作用をもたらす生きた微生物(1989年 ロイ・フラー)」と定義されています。
具体的には、乳酸菌やビフィズス菌のことです。

そう、ヨーグルトです!

抗菌薬使用時に、プロバイオティクスを併用することで、下痢の発現率が減少することが知られています。
細かい菌名の議論は割愛しますが、プロバイオティクスとして多く使用されている「LGG乳酸菌(Lactobacillus rhamnosus)」は抗菌薬耐性でも芽胞形成菌でもありません。
一般的な乳酸菌を使用することで、抗菌薬関連の下痢症を軽減することができます。

整腸剤は?

整腸剤のメリットと言えば、何と言っても「安い」ことではないでしょうか?
整腸剤で有名なビオフェルミン錠剤の薬価は5.7円/錠(2022年3月31日現在)です。
ヨーグルトを毎日食べるのと比較してみてください。
めちゃくちゃ「安い」ですね。
副作用も少ないことから、非常に使いやすい薬と言えます。

整腸剤一覧(医療用医薬品)

「ビオフェルミン錠剤=ビオフェルミン配合散」ではないんです。
正直すごくややこしいですよね。
一覧表を作成しましたので、参考にしていただければと思います。

成分名商品名
ビフィズス菌ビオフェルミン錠剤
ビフィスゲン散
ラックビー錠・微粒N
酪酸菌(宮入菌ミヤBM錠・細粒
乳酸菌(ラクトミン)アタバニン散
ビオヂアスミンF-2散
ビオラクト原末
フソウラクトミン末
ラクトミン散・末
乳酸菌(ラクトミン)
糖化菌(乳酸菌の増殖を補助)
ビオフェルミン配合散
乳酸菌(ラクトミン)
ビフィズス菌
ビオスミン配合散
レベニンS配合散・配合錠
乳酸菌(ラクトミン)
酪酸菌
糖化菌(乳酸菌の増殖を補助)
ビオスリー配合錠・配合散
耐性乳酸菌エンテロノンR散
コレボリーR散
ビオフェルミンR錠・散
ラクスパン散
ラックビーR散
レベニン散
レベニン錠
耐性乳酸菌散10%

困った時の酪酸菌(ミヤBM)

プロバイオティクスもそうですが、どんな整腸剤でも一定の効果は期待できると思います。
ただ、整腸剤を使用してもなかなか下痢がおさまらない時、そんな時に考慮していただきたいのが酪酸菌です。
酪酸菌は芽胞と呼ばれる殻(細胞構造)を形成することが知られています。
殻に籠って守っているイメージですね。
芽胞があると抗菌薬は効果を発揮しづらくなるので、抗菌薬関連の下痢症に対して酪酸菌は有用とされています。

耐性乳酸菌

もう一つ、困ったときに考慮いただきたいのが耐性乳酸菌です。
いくつかの抗菌薬に対して抵抗性を示します。
添付文書的には、ペニシリン系、セファロスポリン系、アミノグリコシド系、マクロライド系、テトラサイクリン系、ナリジクス酸に抵抗性を示すとされています。
一言で耐性乳酸菌と言ってもいくつか種類があって、ラックビーRはテトラサイクリン系に対する適応はないことに注意しましょう。
(レボフロキサシンなどの抗菌薬は適応外です!)

耐性乳酸菌を使用する上でもう一つ重要なことがあります。
それは、通常の乳酸菌と比較して特別増殖能が高いという訳ではないという点です。
抗菌薬が終了したら、通常の整腸剤に変更することも忘れないようにしましょう。

整腸剤を併用することで?

整腸剤の中には、いくつかの成分(菌種)が配合されているものがあります。
これは整腸剤に共生作用が確認されているためです。
「乳酸菌と糖化菌」や「乳酸菌と酪酸菌」といった製剤では、単独培養に比べて、菌数が10倍以上に増加することが知られています。
要するに、色んな菌が配合されているものの方が高い効果が期待できると言えます。

整腸剤によって逆に下痢になることも?(乳糖不耐症)

整腸剤はほとんど副作用がない薬として知られていますが、一つだけ注意しなければいけないことがあります。
それは「乳糖不耐症」です。

牛乳を飲んだ後に下痢になっちゃうあれです!

年齢を重ねるにつれ減る傾向にありますが、日本人は乳製品をあまり摂ってこなかった影響で欧米人と比較して多いと言われています。
ビオフェルミン錠、ビオフェルミンR錠、ミヤBM錠などは乳糖の含有量が少ないとされていますので、牛乳で下痢になる人はこういった整腸剤を選択するようにしましょう。
一方で、ビオフェルミン配合散などは乳糖を含みます。
ラックビーは特に含有量が多いとされていますので、注意お願いします。

さいごに

今回は、整腸剤についてお話させていただきました。
実際にどの程度効果があるのか?
整腸剤に関してはわかっていないことが多いのも現状です。
正直、ある程度の下痢であればほっといても良いと思います。
下痢に対する対応も整腸剤が全てという訳ではありません。
ただ、患者さんが辛いなって症状を訴えてきた時には、適切に手を差し伸べられるよう、参考にしていただければ嬉しく思います。