感染経路別予防策はとっても大事!

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標準予防策(スタンダードプリコーション)は全ての人に対して行われる基本的な感染対策ですが、特定の状況や場面においては特別な感染対策が必要となります。
感染性の強い病原体や疫学的に重要な病原体に感染している場合、それぞれの原因微生物の感染経路に対応する予防策が必要です。
感染管理上重要な3種類の感染経路別予防策についてまとめましたので、参考にしていただければ嬉しく思います。

感染経路別予防策イメージ

接触感染予防策

接触感染予防策とは、皮膚(手)や粘膜などとの直接的な接触、あるいは環境(物品)を介した間接的な接触により伝播する感染を予防するために行う感染対策です。
接触感染は、医療関連感染で最も頻度の高い感染経路と言われています。

原因微生物

アルコールが有効

  • 腸管出血性大腸菌(感染性胃腸炎)
  • 緑膿菌(日和見感染)
  • MRSAなどの薬剤耐性菌

速乾性手指消毒剤(アルコール製剤)による手指衛生」はこちら

アルコールが無効

流水と石鹸で手指衛生、次亜塩素酸ナトリウムで環境消毒
  • アデノウイルス(流行性角結膜炎)
  • クロストリジウム・ディフィシル(下痢)
  • ノロウイルス・ロタウイルス(下痢・嘔吐)
  • 疥癬(掻痒感)

流水と石鹸による手指衛生(手洗い)」はこちら

予防策(実際の対応)

手袋・ガウンを着用する

  • 個人防護具(PPE)は、手袋・ガウンの着用が効果的!
  • 個人防護具(PPE)は、部屋(病室)の入退室時に着脱する。

手指衛生を行う

  • 感染者(患者)や周辺の環境に触れた後は手指衛生を行う。
  • 個人防護具を外した後にも手指衛生行う。

環境(物品など)を消毒する

  • アルコールもしくは次亜塩素酸ナトリウムで環境を消毒する。
  • 物品(血圧計、聴診器、体温計など)は患者専用が望ましい。
  • 複数の患者に使用する場合、患者ごとに洗浄または消毒する。

その他

  • 感染者は個室管理(隔離)が望ましいが、集団隔離(コホーティング)も可能です。
  • 隔離が難しい場合、カーテンなど物理的に接触しないよう障壁を設ける。
  • 移動が必要な場合、感染部位や保菌部位を覆う。

飛沫感染予防策

飛沫感染予防策とは、くしゃみ会話などで飛散した5μm以上の飛沫が感受性のある人の口腔粘膜や鼻粘膜、結膜等の粘膜に付着することによって伝播する感染を予防するために行う感染対策です。
飛沫が接触した環境(物品)に触れた場合など、同時に接触感染予防策も必要です。

原因微生物

  • インフルエンザウイルス
  • マイコプラズマ(空咳)
  • ムンプスウイルス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)
  • 新型コロナウイルス
  • 風疹ウイルス(三日ばしか)
  • 風邪(ライノウイルス、アデノウイルスなど)
  • RSウイルス

予防策(実際の対応)

マスク・フェイスシールドを着用
咳エチケットを守る

  • 個人防護具(PPE)は、マスク(サージカルマスク)を着用する。
  • 個人防護具(PPE)として、フェイスシールドの着用も効果的です。
  • マスクは口と鼻をしっかり覆い、密着させる。
    (鼻や顎を出してマスクを着用しない!)
  • 会話をする際は、お互いにマスクを着用する。
  • マスクがない場合は、ティッシュ・ハンカチ・袖などで覆う。

3蜜を避ける

  • 「密閉」しないように、定期的に換気する。
  • 「密集」しないように、混雑は避け、1~2m以上の距離をとる。
  • 「密接」しないように、十分な距離を保ち、会話を慎む。

その他

  • 感染者は個室管理(隔離)が望ましいが、集団隔離(コホーティング)も可能です。
  • 隔離が難しい場合、カーテンなど物理的に飛沫が飛散しないよう障壁を設ける。
  • ベッドや椅子の距離は1~2m以上に保つことが望ましい。
  • 移動が必要な場合、サージカルマスクを着用させる。

空気感染予防策

空気感染予防策とは、飛沫核と呼ばれる小さな粒子(5μm以下)が空気中を浮遊・拡散し、それを吸い込むことによって伝播する感染を予防するために行う感染対策です。

原因微生物

  • 結核菌
  • 麻疹ウイルス
  • 水痘・帯状疱疹(免疫不全や播種性の場合)ウイルス

予防策(実際の対応)

N95微粒子用マスクを着用する

  • 個人防護具(PPE)N95微粒子用マスクまたはそれ以上の高レベル呼吸器防護用具を着用する。
  • N95微粒子用マスクは、事前にフィットテスト、使用直前にユーザーシールチェックを行う。
  • 麻疹・水痘に免疫(抗体)のある人は、N95微粒子用マスクをつける必要はありません。

その他

  • 感染者は個室管理(隔離)が望ましいが、集団隔離(コホーティング)も可能です。
  • 部屋は独立した空調で陰圧管理を行います。
  • 空気を外へ排出する前や再循環前にHEPAフィルタを通す必要があります。
  • 入退室時以外は扉を閉める!
  • 移動が必要な場合、サージカルマスクを着用させる。

シチュエーションに応じてさらなる予防策が必要

感染経路別の予防策について記載させていただきましたが、あくまで基本的な考え方です。
以下に示す特定の状況や場面(シチュエーション)においては、さらなる対策が必要と考えられています。

新型コロナウイルスの場合

基本的には飛沫により感染が伝播するため、飛沫感染に対する予防策が一番重要であることは間違いありません。
ただ、飛沫が飛散した物品を触れば接触感染も起こりうるため、日々の手指衛生も効果的です。
また、新型コロナウイルスにおいては空気感染と類似の感染様式を示す事例が数多く報告されており、咳やくしゃみ、会話のときに口や鼻から出る小さな粒子(エアロゾル)による感染も否定できないと言われています。
1~2m以上の距離を保つだけでなく、3蜜を避ける行動、つまり換気を行い、混雑を避ける行動を意識しましょう。

ノロウイルスの場合

基本的には接触(経口)により感染が伝播するため、手指衛生や環境消毒による接触感染予防策が有用です。
特に、ノロウイルスはアルコールが無効なため、流水と石鹸で手指衛生を行い、次亜塩素酸ナトリウムで環境消毒を行うようにしましょう。
接触感染以外にも、嘔吐した人が咳やくしゃみをすれば、飛沫にもノロウイルスが含まれているため飛沫感染に対する予防策も必要となってきます。
また、ノロウイルスは乾燥すると小さな粒子となり空気中に舞い上がり空気感染を起こすことが知られているため、乾燥させないように吐しゃ物や下痢便は素早く適切に処理(次亜塩素酸ナトリウムで消毒)する必要があります。

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の場合

MRSAは基本的に接触により感染が伝播するため、手指衛生や環境消毒による接触感染予防策が有用です。
痰からMRSAが分離された場面においては、飛沫にもMRSAが含まれていることが予想されるため、マスクや咳エチケットなどの飛沫感染予防策も必要となります。
MRSA以外にも特定の細菌やウイルスが痰から分離された際には、飛沫感染に対する予防策も合わせて行っていくよう注意しましょう。

エアロゾルが発生する場面

エアロゾルと呼ばれる小さな粒子が空気中に漂う場面においては、空気感染と同様の感染様式を示すため、発生が予想される場面においては、N95微粒子用マスクを用いた空気感染に対する予防策が必要です。
具体的な場面(処置)は、気道吸引、気管内挿管、抜管、用手換気、気管切開と気管切開部でのチューブ交換、歯科口腔処置、非侵襲的換気、ネーザルハイフロー(ネブライザーの使用)、生理食塩水を用いた喀痰誘発、下気道検体採取、吸引を伴う上部消化管内視鏡などです。

結核菌の場合

結核菌が感染する部位としては肺が多く、N95微粒子用マスクなどの空気感染予防策が有用ですが、結核菌は全身の様々な場所に感染を起こす(肺外結核)ことが知られています。
純粋な肺外結核というのは決して多くはありませんが、骨関節結核や腸結核など排菌を起こさない状況においては特別な予防策(空気感染予防策)は必要ありません。

さいごに

今回は、経路別の感染予防策「接触感染予防策」「飛沫感染予防策」「空気感染予防策」についてお話しさせていただきました。

感染対策で重要なことは、相手を知り、効果的な対策を行っていくことです!

感染症は人にうつる病気ということを意識して、感染を広げないよう対策を行っていきましょう。