妊婦が注意すべき抗菌薬

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妊婦さんにこの薬は安全か聞かれたことはないですか?
赤ちゃんへの影響が心配なのは当然ですよね。
今回は妊婦が注意すべき抗菌薬について考えていきたいと思います。

妊婦に抗菌薬を使用する際の大原則

基本的には使用しない

というのが大原則です。
特に妊娠12週以内(臨界期含め)の使用は避けた方が良いと言われています。

安全性が高いとされているマクロライド系でさえ、自然流産のリスクが高くなることが報告(CMAJ 2017;189:E625-633)されています。
使わないに越したことはないということですね。

胎児・新生児への影響が少ない薬を選択する

とは言え、抗菌薬を使用せざる得ない状況は必ず存在します。
無理して抗菌薬を使用せずに感染症が悪化した場合、胎児への影響が生じる可能性もあります。
必要な時にはしっかりと使うということが大切です。

できるだけ授乳は継続する

母乳は免疫機能や神経発達を促すなど、様々な利点があると言われています。
抗菌薬の母乳への移行性は非常に少ない(通常母体の1%以下)ため、基本的には授乳を継続することが推奨されています。
薬物療法の必要性や不利益(副作用)、母乳育児のベネフィットなどを総合的に評価する必要があります。
リスクが高い薬剤を使用せざる得ない場合は、授乳を中止することで新生児への影響を避けることができます。
わかっていないことも多いので「とりあえず授乳を中止する」それも選択肢の一つです。

考えなければいけないこと

妊婦に抗菌薬を投与する場合、母子双方に及ぼす影響について考える必要があります。

まずは母体への影響です。
妊娠中は生理学的変化が起こります。
循環血漿量や分布容積が増加し、腎排泄が促進されるため、抗菌薬の血中濃度は低下することが予想されます。
と色々言われていますが、基本的には通常量を投与(期間は短く)すれば良いとされています。

胎児への影響

一番考えなくてはいけないのは、胎児への影響です。
催奇形性や胎児毒性が報告されている薬剤は避ける必要があります。
胎盤通過性が高いもの(低分子量、高い脂溶性、非イオン型、低い蛋白結合率)には特に注意が必要です。
臍帯血への移行性は約20~40%と報告されています。

服用する薬自体の影響は?
妊娠周期のどの段階か?

妊婦に対しては、こういったことを考えていかなければいけません。

妊婦への投与を避けるべき抗菌薬

では、具体的に投与を避けるべき抗菌薬はどれでしょうか?
一般診療でも多く使用されるキノロン系抗菌薬(レボフロキサシン)などは、注意して使用していく必要があります。

アミノフリコシド系胎児の第8脳神経障害
(新生児聴力障害)
キノロン系関節障害(動物)
※ 炭疽等重篤な感染症に使用される場合あり
クロラムフェニコール
(膣錠を除く)
新生児のグレイ症候群(妊娠末期)
テトラサイクリン系胎児の歯牙エナメル質形成不全
骨発育不全
奇形
母体の急性脂肪肝
ST合剤新生児黄疸
催奇形性(動物)

安全に使用できる抗菌薬

避けるべき抗菌薬がある一方で、安全性が高い抗菌薬も存在します。
ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系、リンコマイシン系、ホスホマイシン系の抗菌薬は比較的安全性が高いとされています。
妊婦に抗菌薬を使用する場合は、まずはこちらの中から選択するようにしましょう。

参考にすべき資料

国内の添付文書にも記載されていますが、科学的根拠が乏しいのが現状です。
公的な情報としては、米国や欧州のリスク分類が参考になります。
「成書(妊娠と授乳、実践 妊娠と薬 第2版 など)」にもまとめられていますので、日常診療ではそちらを参考にすることができます。

添付文書
米国FDA分類「Pregnancy Category」 A~D,X
欧州ADEC分類「妊娠中の投薬とそのリスク評価基準」 A~D,X
成書

厳密には、2015年6月にカテゴリ分類は廃止、個別に具体的なリスク記載する記述形式に変更されています。

さいごに

抗菌薬に限らず妊婦への薬物投与に関しては、その影響がわかっていないことも多いです。
慎重に、かつ必要な時にはしっかりと使用できるよう参考にしていただければ嬉しく思います。