「ピボキシル基」のカルニチン欠乏とは?

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抗菌薬の中に「~ピボキシル」とついているものがあります。
これって何か知っていますか?
「ピボキシル基」を含有することでメリットがある一方で、カルニチン欠乏といったデメリットがあるのも事実です。
今回は、そんな「ピボキシル基」について考えていきたいと思います。

「ピボキシル基」を含有するメリット

「ピボキシル基」は、なぜ加えられているのでしょう?
それは、腸管からの吸収を良くするためです。
せっかく抗菌薬を服用しても、吸収されなければ期待する効果は望めません。
より多く吸収される(バイオアベイラビリティが高い)抗菌薬ほど、より高い効果が得られる!
そのための技術の一つなんです。

「ピボキシル基」を含有する抗菌薬は?

「ピボキシル基」を含有する抗菌薬は決して多くはありません。
日本では、4種類だけです。

第三世代セフェム系抗菌薬(経口)

セフカペン ピボキシルフロモックスcefcapene pivoxilCFPN-PI
セフジトレン ピボキシルメイアクトcefditoren pivoxilCDTR-PI
セフテラム ピボキシルトミロンcefteram pivoxilCFTM-PI

カルバペネム系抗菌薬(経口)

テビペネム ピボキシルオラペネムtebipenem pivoxilTBPM-PI

あれっ?
第三世代セフェム系抗菌薬って、ほとんど吸収されない薬(DU剤)じゃなかったっけ?

そう思った方も多いのではないでしょうか?

セフェム系抗菌薬は第一世代はよく吸収されて効果を発現する一方で、世代が高くなるにつれて吸収率が悪くなります。
第三世代セフェム系抗菌薬はほとんど吸収されないため、この「ピボキシル基」をくっつけて、少しでも吸収率を上げようと考えられました。
ただ、実際には「ピボキシル基」を含有していたとしても、バイオアベイラビリティはさほど変わらないというのが現状で、「セフジトレン ピボキシル」のバイオアベイラビリティは16%しかありません。
結局「第3世代経口セフェム系抗菌薬は必要ない?」という話は別の記事に記載していますので、そちらも参考にしていただければと思います。

テビペネム ピボキシル(オラペネム)のバイオアベイラビリティに関しても、添付文書やインタビューフォームには「該当資料なし」と記載されているだけで、よくわかっていないというのが現状です。
(動物試験では、マウス 71.4%、ラット 59.1%、イヌ 34.8%、サル 44.9%と報告されています。)

「ピボキシル基」を含有するデメリット

デメリットは「カルニチン」が低下することです。
「ピボキシル基」は体内で「ピバリン酸」と呼ばれる物質に代謝され、「カルニチン」と結合して「ピバロイルカルニチン」として尿中に排泄されます。
そのため、体内の「カルニチン」が低下するというメカニズムです。
「カルニチン」は体内のエネルギー産生代謝において重要であり、低カルニチン血症になると様々な症状が発現する可能性があります。

低カルニチン血症の臨床症状は?

低カルニチン血症のリスク(症状)を患者さんに説明することはできますか?

大事なことはここです!
日本小児科学会の「カルニチン欠乏症の診断・治療指針 2018」では、次のように記載されています。

疑われる臨床症状としては、意識障害、けいれん、筋緊張低下・筋力低下・重度のこむら返り・重度の倦怠感、横紋筋融解症、脳症、空腹・感染で誘発される嘔吐、頻回嘔吐、精神・運動発達の遅延、体重増加不良、呼吸の異常、心肥大・心筋症・心機能低下および突然死(あるいはその家族歴)、反復性Reye 様症候群などである。
疑われる臨床検査所見としては低ケトン性低血糖、代謝性アシドーシス、
高アンモニア血症、肝機能異常(AST や ALT の上昇)および脂肪肝、血液ガス分析異常(pH、HCO3-、BE)、電解質異常(Na、K、Ca、Cl)、治療抵抗性の貧血などである。

そのリスクと共に、注意すべき症状についてもしっかり説明できるよう見直していただければと思います。

注意が必要な人は?(=乳児)

「カルニチン」は、食事から接種された「リジン」や「メチオニン」から合成されて、筋肉に貯蔵されています。
乳児では、「カルニチン」合成能が成人の5分の1程度であり、筋肉量が少なく貯蔵量が少ないことから、カルニチン欠乏をきたしやすいことが分かっています。
乳児に「ピボキシル基」を有する薬を投与する時には、「低カルニチン血症」に注意しましょう。
特に筋肉量の少ない低体重児では、よりリスクが高くなることを覚えておきましょう。

投与が長期になる程、リスクが高くなる!

体重10kgの乳児における「カルニチン」保有量は約10mmolと推定されています。
「ピボキシル基」を含有した抗菌薬を約1か月投与すると、保有量の約50%である5mmolが失われると言われています。
投与期間が1か月以上、長期になればなるほど、そのリスクが高くなることも覚えておきましょう。

他にも「カルニチン欠乏症」が起こりうる場面

「カルニチン欠乏症」を引き起こす薬剤は「ピボキシル基」含有の抗菌薬だけではありません。
抗てんかん薬の「バルプロ酸ナトリウム」は、同様に「カルニチン」と結合して尿中に排泄されることが知られています。
そのため、「カルニチン欠乏症」に由来する「高アンモニア血症」が起こることがあります。
「バルプロ酸ナトリウム」は基本長期に服用が必要な薬剤であるため、厄介ですよね。

他にも「乳幼児特殊医療用調製粉乳」や「経腸栄養剤」でも「カルニチン欠乏症」が引き起こされる場合があります。
そのため、2014年に発売された「カルニチン」を含有する半消化態栄養剤が「エネーボ配合経腸溶液」です。

エレンタール
(成分栄養剤)
エレンタールP
(成分栄養剤)
ツインライン
(消化態栄養剤)
ラコール
(半消化態栄養剤)
エンシュア
(半消化態栄養剤)
エネーボ
(半消化態栄養剤)
エネルギー100kcal100kcal100kcal100kcal100kcal100kcal
NPC/N18.327.920.017.022.416.6
カルニチン1.1mg11.0mg

目安として、「遊離カルニチン」血中濃度が20μmol/L以下に低下した場合は、カルニチン(商品名:エルカルチン等)を補充することが推奨されています。

さいごに

今回は「ピボキシル基」を含有する抗菌剤の「カルニチン欠乏」についてお話させていただきました。
第三世代セフェム系抗菌薬の使用量が減ってきているとは言え、世の中ではまだまだ多く使用されているのが現状です。
特に乳児に使用する際には注意が必要となりますので、その注意点について見直していただければと思います。