医療に携わっている限り、針刺し事故を完全に回避することは不可能です。
いざという時に必要な対応について見直していきましょう。
一番大事なことは「すぐに流水と石鹸で洗い流す」こと!
まず一番大事なことは「すぐに流水と石鹸で洗い流す」ことです。
その後、上司に報告しましょう。
針刺し事故時には、血液を介して伝播する感染症に対して対応が必要となります。
対応が必要になる感染症はこの3つです。
B型肝炎ウイルス(HBV)
日本人のキャリア(持続感染)は50~80 歳代で1%以上と高い感染率です。
2016年にワクチンが定期接種化されたとは言え、それ以上の年齢層における日本人のワクチン接種率は数%と低い現状があります。
一方で、世界におけるワクチン接種率は80%を超えており、生活の厳しい北朝鮮でも接取率は95%以上と言われています。
つまり、日本においてB型肝炎ウイルスに感染するリスクは諸外国と比較しても高い現状があり、その対応については覚えておく必要があります。
ワクチン接取歴&抗体価により「免疫グロブリン」「ワクチン」を投与
上記が必要になります。必要に応じて医療機関を受診しましょう。
C型肝炎ウイルス(HCV)
C型肝炎に感染すると70%の割合で慢性肝炎に移行し、肝硬変や肝がんへ進行することがあります。
2015年に登場したDAA(直接作用型抗ウイルス剤)の発売で、予後は劇的に改善しましたが、高い慢性化率を誇りますので、注意が必要です。
その対応ですが、予防薬やワクチンはありませんので、定期的な検査を行い、経過観察をしていくこととなります。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)
感染率は非常に低いですが、一度感染が成立してしまうと完治を目指すことは非常に困難です。
職業的暴露によるHIVの感染例は世界的にみてもほとんど報告はありませんが、その対応については注意が必要です。
暴露後予防内服(PEP)
「ART」と呼ばれる抗HIV薬の多剤併用療法を1か月間服用して感染を予防します。
そこで覚えていただきたいのが、初回は2時間以内に内服した方がいいという点です。
つまり、夜間や休日においても素早い対応が必要となります。
HIV拠点病院は、全国のほとんどどの地域にいたとしても2時間以内でアクセスが可能な場所に設置がされています。
リスクが生じた時には、すぐにお近くのHIV拠点病院に連絡しましょう。
事故者への説明(HIV感染症の場合)
事故者は不安・焦りを感じてしまうことがあります。
正しい情報を正確に説明をすることで、過剰な心配を減らすことができます。
(1) 針に含まれる血液量は1μL前後である。
(2) 患者の血漿HIV RNA量が10 万コピー/mL では1μL に含まれるウイルス量は100 個であり、血漿HIV RNA量が20 コピー/mL では1μLに含まれるウイルス量は0.02 個である。
(3) HIVウイルス粒子で感染が可能な粒子の頻度は1,000 個に1 個程度である。
(4) 以上より針刺し事故時に医療者が曝露した感染性粒子の数は、患者の血漿HIV RNA量が10 万コピー/ mL では0.1 個、20 コピー/ mL では0.00002 個と推定される。
さいごに
今回は針刺し事故時の対応についてお話しさせていただきました。
いくら対策を行っていても、事故発生をゼロにするのは実現困難です。
いざという時はもちろんのこと、意外と他の医療従事者から質問を受ける場面も多い針刺し事故について、今一度見直して参考にしていただければと思います。