新型コロナワクチンが筋肉内注射ということを聞いて、不安を感じた方も多いのではないでしょうか?
日本ではインフルエンザワクチンを始めとして、多くのワクチンが皮下注射されてきました。
欧米諸国では、生ワクチンを除くほとんどのワクチンは原則筋肉内注射での投与が行われており推奨されています。
その理由について考えていきましょう。
大腿四頭筋短縮症という社会問題
「大腿四頭筋が変性に陥り、筋本来の柔軟性を失い短縮を呈し、関節機能に影響を及ぼし拘縮を呈したもの」と規定されており、1972年に山梨県鰍沢町・増穂町を中心として大腿四頭筋短縮症の集団発生という事件が報じられました。
日本小児科学会誌 1983;87:1067‐1105.
いわゆる繰り返し薬剤を筋肉内注射することによって筋肉組織が破壊され、筋肉が伸縮性を失い短くなった結果、関節が曲がるといった関節障害です。
当時原因となった薬はワクチンではなく、頻回に抗菌薬や鎮痛剤(スルピリンなど)が投与されたことに起因しますが、この事件以降、筋肉内注射自体が問題であるという考え方が定着していきました。
筋肉内注射の方が効果が高い!
ワクチンの種類にもよりますが、筋肉内注射の方が抗体産生が良いと言われています。
筋肉内注射と皮下注射による抗体産生を比較した文献においても、筋肉内注射郡で抗体産生が有意に高かったことが報告されています。
インフルエンザワクチン → Vaccine 2006;24:2395-2402.
B型肝炎ワクチン → Scand J Infect Dis 1987;19:617-621.
筋肉内注射の方が局所の副作用が少ない!
多くのワクチンには「アジュバンド」と呼ばれる免疫を活性化させる成分(アルミニウム塩など)が含まれていますが、刺激性が強いため、局所の刺激・炎症・結節の形成や壊死の危険があります。
筋肉内注射と皮下注射を比較した場合、筋肉内注射の方が早く吸収され、皮下注射の方が長く局所に留まることから、皮下注射の方が有意に局所の副作用が多いことが報告されており、欧米諸国では筋肉内注射による投与が推奨されています。
「皮下深く」うつ!?
「皮下深く」には何があるか考えてみてください。そう、筋肉です。
こういった現状を踏まえ、多くのガイドラインでは、なるべく「皮下深く」接種することが局所の硬結を予防する上でも大切であると記載されています。
最近発売された新しい新型コロナワクチンやヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンでも、筋肉内注射が標準的な投与法とされていますね。
揉まずに軽く押さえる!
注射部位を揉むか揉まないかについては、賛否両論があります。
昔は注射部位を揉むことによって硬結を予防したり、良い免疫獲得効果が得られたりすると考えられ、推奨されていました。
現在は全く逆の「揉まない」ことが推奨されています。
あまり強く揉むと組織が破壊され、皮下出血や疼痛、硬結のリスクが増えると言われており、揉む場合でも数回程度にとどめ、基本的には「揉まずに軽く押さえればよい」とされています。
さいごに
今回はワクチンの筋肉内注射についてお話しさせていただきました。
筋肉内注射はあまり経験がないため、怖いと感じている方も多いのではないでしょうか?
正しい知識を身につけ、安心してワクチンを接種できる環境を一緒に整えていきましょう。
ちなみに「生ワクチン」に関しては、局所反応が少ないことや免疫原性が高いことから皮下注射が推奨されています。