今回はたびたび議論が沸く「インフルエンザワクチンを毎年接種すると効果が減弱するのではないか?」と言うことについてお話しさせていただきたいと思います。
Hoskinsのパラドックス
「インフルエンザワクチンを毎年接種すると効果が減弱するのではないか?」という議論は、実は昔からあります。
この問題を初めて提議したのが、1979年に掲載(The Lancet)された「Hoskins」らの論文であったことから、「Hoskinsのパラドックス」と呼ばれました。
彼らの論文については、解析方法に不備があるとして否定されましたが、その後も同様の論文が数多く発表され、議論が繰り返されています。
毎年の接種で効果が減弱
まず、いくつかの論文を紹介します。
いずれの論文も毎年ワクチンを接種することによって、その効果が減弱する可能性が示されています。
約6万人を対象として「ワクチン接種歴(過去10年間)」と「今シーズンのワクチン接種による感染予防効果」について検討した論文では、過去のワクチン接種歴(用量依存的)によって今シーズンのワクチン接種による感染予防効果が減弱することが示されています。
今シーズンのワクチン接種による感染予防効果
毎年接種している人:7%(-4~16%)
接種歴ない人:34%(9~52%)
同様の論文は日本においても報告されており、毎年ワクチンを接種している人は、前シーズン未接種の人より感染予防効果が有意に低く、過去のワクチン接種回数に用量依存的に低下することが示されています。
今シーズンのワクチン接種による感染予防効果
毎年接種している人:21%(-26~51%)
接種歴ない人:96%(69~100%)
インフルエンザワクチンには通常4種類の成分(H1N1/Aソ連型、H3N2/A香港型、Bビクトリア系統、B山形系統)を混合した製剤が使用されます。
複数の研究を統合したメタ解析では、特に「H3N2」と呼ばれるウイルス株に対してワクチン効果の減弱が認められることが示されています。
毎年インフルエンザワクチンを接種することで、その効果が減弱する可能性が数多く報告されていますが、解釈には少し注意が必要で、シーズンごとに流行株が異なったりと一概にそうと言えない側面もあります。
研究の限界(制限)
- 検査方法の違いによる影響は?
- 無症候感染や軽症未受診感染者は?
- 流行株とワクチン株の関係は?
- 亜型別の解析は?
- 対象者の背景(地域や人種など)は?
- 交絡因子の影響は?
確実に言えること!
確実に言えることは「インフルエンザワクチンを毎年接種すると、ある一定の条件下で効果が減弱する」ということです。
それでもワクチンを接種した方が良い人は?
毎年インフルエンザワクチンを接種することで、確かに効果が減弱する可能性があります。
では、接種しない方がいいのかと言うと、そういう訳ではありません。
と言うのも、今シーズンインフルエンザが流行するかしないかっていうのはわからないですよね。
インフルエンザは過去に何度も世界的大流行(パンデミック)を引き起こしています。
そういった時の対策として、接種という選択肢が有用であることは間違いありません。
過去のインフルエンザ世界的大流行
- 1918~9年:スペインインフルエンザ(スペインかぜ)
- 1957~8年:アジアインフルエンザ(アジアかぜ)
- 1968~9年:香港インフルエンザ(香港かぜ)
- 2009~10年:新型インフルエンザ(A/H1N1)
また、インフルエンザワクチンには重症化を防ぐ効果もあります。
「重症化のリスクが高い人」および「重症化のリスクが高い人に職場や家庭内などで接する機会の多い人」に関しては、積極的な接種が推奨されます。
重症化リスクの高い人
- 慢性呼吸器疾患
- 慢性心疾患
- 糖尿病などの代謝性疾患
- 腎機能障害
- ステロイド内服などによる免疫機能不全
- 妊婦
- 乳幼児
- 高齢者
さいごに
今回は「インフルエンザワクチンを毎年接種すると効果が減弱するのではないか?」ということについてお話しさせていただきました。
確かにそういった可能性があることは事実、それでも接種した方がいい人がいるというのも事実です。
実際に接種するかどうかは、一つの側面にだけとらわれるのではなく、自身のおかれている環境(周りの人など)を考え、総合的に判断いただければと思います。