「セフトリアキソン」は半減期が長いため、1日1回(点滴)の投与で治療が可能な数少ない抗菌薬です。
グラム陽性菌からグラム陰性菌まで幅広い抗菌スペクトルを有するため、外来(在宅)も含めて非常に多く使用されています。
そんな「セフトリアキソン」ですが、意外と見落としがちなのが「カルシウム」を含む輸液との相互作用です。
今回は「セフトリアキソン」を使用する上で注意すべき結石のリスクについて考えていきたいと思います。
「セフトリアキソン」と結石について
「セフトリアキソン」を投与する時に結石のリスクを考慮していますか?
この薬の特徴として、結石(沈殿物)を生じやすいことが分かっています。
具体的には、どのような症状が引き起こされる可能性があるのでしょうか?
添付文書には、「重大な副作用」として次のように記載されています。
胆石、胆嚢内沈殿物(いずれも頻度不明)
セフトリアキソンを成分とする胆石、胆嚢内沈殿物が投与中あるいは投与後にあらわれ、胆嚢炎、胆管炎、膵炎等を起こすことがあるので、腹痛等の症状があらわれた場合には投与を中止し、速やかに腹部超音波検査等を行い、適切な処置を行うこと。なお、多くの症例は小児の重症感染症への大量投与例でみられている。
腎・尿路結石(頻度不明)
セフトリアキソンを成分とする腎・尿路結石が投与中あるいは投与後にあらわれ、尿量減少、排尿障害、血尿、結晶尿等の症状や腎後性急性腎不全が起きたとの国外報告がある。
実際には無症候性であることがほとんどで、投与中止により自然回復することが多いです。
ただ、結石により一過性の腎不全が発現した症例もあるため、軽視はできません。
こういった症状が生じた場合は、結石のリスクを考えるようにしましょう。
「カルシウム」との沈殿物
「セフトリアキソン」は特に、「カルシウム」と一緒に投与すると沈殿物が生じることが報告されています。
本剤を投与する場合は、カルシウムを含有する注射剤又は輸液と同時に投与しないこと。国外において、新生児に本剤とカルシウムを含有する注射剤又は輸液を同一経路から同時に投与した場合に、肺、腎臓等に生じたセフトリアキソンを成分とする結晶により、死亡に至った症例が報告されている。
日本の添付文書にはこのように記載されています。
「セフトリアキソン」と「カルシウム」は同時投与禁止!
ということです。
アメリカの添付文書では、さらに厳しい警告が記載されています。
セフトリアキソンの最終投与とカルシウム含有製剤の使用との間に48時間の間隔を置かなければならない。
かなり厳しい基準が設定されていますね。
結石の機序については不明な点も多いですが、「セフトリアキソン」は胆管や腎臓から排泄されるため、そこに生じる沈殿物が結石として問題となることが多いというのは納得です。
「カルシウム」を含む輸液とは?
「カルシウム」は具体的にどのような製剤に含まれているのでしょうか?
中心静脈栄養に使用される製剤(高カロリー輸液)はもちろんのこと、多くの電解質輸液製剤にも含まれています。
末梢投与可能な「Ca+」含有製剤一覧
各種輸液製剤 | 分類 | カルシウムイオン(Ca+)濃度 |
リンゲル液 | 細胞外液補充液(リンゲル液) | 4.5 mEq/L |
ソルラクト輸液・D輸液・S輸液・TMR輸液 | 細胞外液補充液(乳酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
ニソリ輸液・M注・S注 | 細胞外液補充液(乳酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
ハマルトン液・D液 | 細胞外液補充液(乳酸リンゲル液) | 2.7~3 mEq/L |
ポタコールR輸液 | 細胞外液補充液(乳酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
ラクテック注・D輸液・G輸液 | 細胞外液補充液(乳酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
ラクトリンゲル液・M注・S注 | 細胞外液補充液(乳酸リンゲル液) | 2.7 mEq/L |
アクメインD輸液 | 細胞外液補充液(酢酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
ヴィーンD輸液・F輸液 | 細胞外液補充液(酢酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
ソリューゲンF注・G注 | 細胞外液補充液(酢酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
ソルアセトD輸液・F輸液 | 細胞外液補充液(酢酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
フィジオ140輸液 | 細胞外液補充液(酢酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
リナセートD輸液・F輸液 | 細胞外液補充液(酢酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
ペロール注 | 細胞外液補充液(酢酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
ビカーボン輸液 | 細胞外液補充液(重炭酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
ビカネイト輸液 | 細胞外液補充液(重炭酸リンゲル液) | 3 mEq/L |
グルアセト35注 | 低張性電解質液(3号液) | 5 mEq/L |
ソリタックス-H輸液 | 低張性電解質液(3号液) | 5 mEq/L |
トリフリード輸液 | 低張性電解質液(3号液) | 5 mEq/L |
フィジオ35輸液 | 低張性電解質液(3号液) | 5 mEq/L |
フィジオ70輸液 | 低張性電解質液 | 3 mEq/L |
エネフリード輸液 | PPN(末梢静脈栄養輸液) | 5 mEq/L |
ツインパル輸液 | PPN(末梢静脈栄養輸液) | 5 mEq/L |
パレセーフ輸液 | PPN(末梢静脈栄養輸液) | 5 mEq/L |
パレプラス輸液 | PPN(末梢静脈栄養輸液) | 5 mEq/L |
ビーフリード輸液 | PPN(末梢静脈栄養輸液) | 5 mEq/L |
サヴィオゾール輸液 | 代用血漿増量剤 | 4 mEq/L |
ヘスパンダー輸液 | 代用血漿増量剤 | 4 mEq/L |
低分子デキストランL注 | 代用血漿増量剤 | 4 mEq/L |
こうやって見ると、めちゃくちゃ多いですね。
ここに記載されていない、維持液(3号液)などは「Ca+」を含まないため、そういった輸液を併用するようにしましょう。
さいごに
今回は「セフトリアキソン」と「カルシウム」の関連についてお話させていただきました。
ほとんど無症候性と言っても、それを無視する訳にはいきません。
特に小児では可逆性偽胆石症が多く報告されています。
より安全な抗菌薬治療を提供するためにも、避けられるリスクは避けられるよう確認していきましょう。