誤嚥しないようにっていうのはわかってはいるんですけど、なかなか難しいですよね。
今回は医療現場ではよく見かける誤嚥性肺炎のお話です。
誤嚥性肺炎とは?
食べ物や唾液を飲み込むときに、誤って気管に入ってしまうこと(誤嚥)を経験したことはないでしょうか?
誤嚥性肺炎は、そう言った誤嚥を契機に引き起こされる肺炎のことです。
高齢や脳血管障害などに伴う全身機能の低下が背景になることが多く、寝たきりの方には特に注意していただきたい感染症です。
誤嚥性肺炎のリスク因子は?
飲み込む機能や吐き出す(喀出)機能が低下することで誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなります。
- 嚥下機能障害(意識障害、長期臥床、脳血管障害、認知症など)
– 薬剤性:鎮静薬、睡眠薬、抗コリン薬(口渇) - 胃食道機能不全(逆流性食道炎、食道機能不全など)
- 喀出能低下(全身衰弱、長期臥床など)
- 気道クリアランス低下(慢性気道炎症性疾患など)
- 免疫能低下(全身衰弱、長期臥床、低栄養など)
起炎菌は口腔内常在菌(嫌気性菌)!
口腔内は食べ物などの残りかす(栄養)が多く、細菌にとって快適な環境が揃っています。
そのため、口腔内には非常に多くの細菌が常在しているんです。
誤嚥性肺炎は、その口腔内の常在菌が起炎菌となります。
では、口腔内にはどのような細菌が常在しているのでしょうか?
簡単に言ってしまうと、空気が嫌いな嫌気性菌が起炎菌となる場合が多く、嫌気性菌をカバーできる抗菌薬の投与が必要になります。
(嫌気性菌の治療必要性に関しては、厳密には議論が分かれています。)
免疫能が低下した患者(院内発症など)では、緑膿菌などのグラム陰性桿菌が原因となることもあります。
また、保菌の状態によっては耐性菌(MRSAなど)が起炎菌となることもありますので、個々の患者さんの背景をしっかり確認していくことが重要です。
誤嚥性肺炎を予防するには?
予防で大事なことは「口腔ケア」です。
口腔内を清潔に保ち、誤嚥しないように対策していきましょう。
- 口腔ケア
- 上体の挙上(頭部を30~45度挙上)
- 摂食・嚥下リハビリテーション
- 栄養状態の改善
- 鎮静薬の中止
- ACE 阻害薬やシロスタゾールなど嚥下機能を改善させる薬物
誤嚥性肺炎の治療薬
嫌気性菌はβ-ラクタマーゼ(抗菌薬を分解してしまう酵素)を産生することが多く、ペニシリンなどの抗菌薬は効果を示さないため、β-ラクタマーゼ阻害薬が配合された抗菌薬などを選択していく必要があります。
また、誤嚥性肺炎を発症する方は免疫能が低下した患者さんが多いため、緑膿菌も同時にカバー可能な抗菌薬を選択しましょう。
Point:嫌気性菌と緑膿菌をカバーする!
TAZ/PIPC | 1回4.5g・1日3~4回 |
MEPM | 1回1g・1日2~3回 |
上記薬剤が使用できない場合は、嫌気性菌と緑膿菌を別々にカバーできる抗菌薬に変更もできます。
LVFX + CLDM | 1回500mg・1日1回 + 1回600mg・1日2~4回 |
決して多くはありませんが、状態が安定していれば飲み薬で外来治療も可能です。
CVA/AMPC オーグメンチン配合錠 | 1回500mg(AMPC)・1日3~4回 |
MRSAが起炎菌になりうる場合は、上記薬剤に加えて抗MRSA薬を加えます。
また、起炎菌が判明したら、しっかりとデ・エスカレーションすることも大切です。
治療期間は?
基本的には1週間程度が推奨されていますが、緑膿菌などが起炎菌と考えられる場合には、再燃のリスクを考慮して14日間程度の治療期間が推奨されています。
さいごに
今回は誤嚥性肺炎の治療薬についてお話させていただきました。
リスクの高い人は再発を繰り返すことが多く、非常にやっかいな感染症と言えます。
治療も大事ですが、いかに誤嚥をさせない環境を作っていくかもも大事となりますので、今一度見返していただければ嬉しく思います。